第1節 授業計画の作成(公立小学校5年生用に作成したもの)
1 ねらい
多田孝志は、『学校における国際理解教育―グローバルマインドを育てる―』の中で次のように述べている。
-異文化理解教育でのコミュニケーション能力とは、価値(目的意識)と知識(認知領域)及び技能(技能領域)の習得である-
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・人種や文化や言語が世界にはたくさんあることを理解し、文化やコミュニケーシ
ョンの違いや人間としての共通点を見つけることで、コミュニケーションが人と
人を繋げたり、協同作業や同じ目的や夢の実現のために大切だということに気が
つく。
・自分なりの視点を持ち、自分なりの表現で相手に伝えることや相手の意見を聞き
相手を理解しようとする態度が大切だと考えることができる。
(英語だけでなく、他の外国の言語も使って、いろいろなコミュニケーションの方
法を使うような柔軟かつ積極的な考えや姿勢を育てる)
2 導入(授業計画)
テーマ:共生のためのコミュニケーション
-ワールドカップサッカー2002世界をこえた交流から学ぼう-
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≪学習活動と内容≫
内容:「コミュニケーション能力の育成」と「異文化理解体験」という2つの構成
で作成する。
(1)第1ステップ-導入段階-
◎ワールドカップサッカー2002年で世界を越えた交流が行われた。
〇ワールドカップで優勝したブラジル(南米のサッカーや民族・言語)について
私の大分でのボランティアの経験を話す(世界から九州(大分・佐賀)にやっ
てきた人たち)その中の国や文化や言葉について、その他興味をもったことについて話し合う。
(2)第2ステップ-課題学習と国際交流体験-
◎サガン鳥栖の活動や佐賀にやってきたカメルーンチームの様子などについて、
世界の人たちと自分たちが好きな事を一緒にしたい時や何か伝えたいかったことを想像し、どうやってコミュニケーションしたらいいのか考えてみる。また、身近にいる外国人の人たちに自分のメッセージをどう伝えたらいか方法につい
て考える。
(例)「英語で通じるかな?」「ことばが使えなくても分かり合えるかな?」
小グループに分かれて、
〇話したい人の国で使われている言語について、コミュニケーションの方法を調
べる。(習慣や文化なども参考にいれる)
〇いろいろなやり方で自分を表現してみよう(他の言語、ジェスチャ-(eye‐c
ontact、しぐさ、その他の道具)などによる自己紹介(履歴書)の方法
を見つける
〇実際に外国人と交流して、いままで学習した表現方法が使えるかどうか体験し
てみる(ここでは、私が外国人として日本語を話さず、コミュニケーション「自
己紹介」を行う)
(3)第3ステップ-発表・話し合い-
◎国際交流体験から学んだことを発表する
〇コミュニケ-ション体験で感じた事について、小作文を書いてもらう。
〇最後に感想を発表してもらい、これからどんな人とどんなコミュニケーションをしたいかについて意見を話し合い、次回の国際交流体験の学習に繋げる
≪使用する教材≫
〇FIFA「2002ワールドカップサッカー」に関する資料(写真・TV・新聞記事)
〇2002ワールドカップサッカー私物(大分でボランティアをしたときのもの)
〇世界の言語辞典や地図・地球儀など補助教材
〇図書館の活用(調べるため)
〇自己紹介(履歴書)ために必要な教材(紙・色鉛筆・テープ・はさみなどの文
具)
≪教師の支援≫
(1)助言的行動:子ども自身が自分で気がつくように間接的な働きかけを常に行うこと。子どもの相談に応じて教師がヒントやアドバイスを行ない、子どもの主体的な学習を支える役割をする。
(2)励まし:子どもの学習自体をそっくり受けとめ、子供主体の学習活動が最後まで意欲的に行われるように働きかけるよう配慮する。
(3)開かれた発問:例えば、教師「なぜ、人々はコミュニケーションするのでしょうか?」というと「わからない」という子どもの答えに対して、教師「分からないときはどうすればいいかな」というように、子どもの考えをめぐらし答えを見つけるようにしていくような問いかけを展開していく。
(4)学習の場づくり:グループ学習や他の人々との交流学習や学習時間の弾力化が重要な支援内容であるとして、子どもの学習状況に応じた弾力的な時間の扱いや、学習空間の拡大として、学校内外の学習環境の再編が求められることや地域を基盤とした学習の場を作ることが必要である。
≪評価内容と方法≫
内容:①授業中の活動面の評価:授業前と授業中の子供達の態度や表情を観察
し、コミュニケーションの技能や意識・態度を評価する。
①子供の発言・話し合いでの評価:今回は、生徒の発言、話し合いのなかで「自分なりの見方・考え方をしているか」「タイミング良く意見が出せるか」自分とは異なる意見・考え・感覚を認める姿勢などを評価する。
②異文化に対する姿勢・態度の評価:自国の文化や異文化に対して興味を持ち、自分なりの考えや異文化を理解しようとする態度や姿勢を評価する。
③交流体験での活動面の評価:自分をできるだけ客観的に見て、どのような点を伸ばし、努力していかなければならないか、生徒自身の将来の目標設定を決め次の学習のステップになるよう子どもの自分に対する発言や態度を観察して評価する。
方法:原則的に、子どもの活動に対して、共感したり、賞賛したり、認めた
りする評価を行い、次の活動を子ども自身が進んでやる気が起きるような評価方法で授業を展開する。
≪子供の変容≫
最適なカリキュラムと教材開発のため、学習に適した教材やこれまで作
成した指導計画、学習計画案の改善、有効であったことなどを中心に観察
記録として書き止め、インタビューやアンケートの実施、授業での学習課
題で作成されたものや作文や話し合いの内容(写真・VTRやカセットテー
プなどの活用)から子どもの変容を細かく捉えるようにする。
3 展開(授業内容)
総合な学習の時間を使っての実践
北川副小学校5年生(36名)
テーマ
「2002年日韓ワールドカップサッカーと国と国を越えた交流について」
-世界を繋ぐコミュニケーションを学ぼう!-
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◎ねらい:①子どものコミュニケーション意識を高める
②目的意識を持ったコミュニケーションの重要性と具体的なアプローチ
の方法を見つける
③交流体験により、積極的なコミュニケーションする態度を育てる
④人間としての共通性に目を向け、心を傾ける態度や協調姿勢を育てる
◎方法:課題学習(グループ別)と交流体験学習
◎教材:
[課題学習]
〇「2002ワールドカップサッカー」に関する資料(写真・TV・新聞記事)
〇2002ワールドカップサッカーでのボランティアをしたときの私物(旗と
FIFAのアイデェンティティ・カードと写真など(ボランティア地:大
分県大分市「ビックアイ」)
〇地図・地球儀など補助教材
[交流体験学習]
〇外国人留学生2名(ペルー人とメキシコ人)を交えた交流授業
【第1ステップ】-(導入段階)-
〇2002年日韓ワールドカップサッカーでの国と国を越えた交流から、世界を繋ぐコミュニケーションを考えること:①その意味と目的とその方法や大切なことは何か②自分なりの表現方法を考える「必要性とその方法を見つける学習」(1時間目)
〇つぎの時間では、自分なりの表現方法を実際に体験してみよう、外国人の人たちと一緒に交流してみようという時間を準備していることを説明する(2時間目)
2002年日韓ワールドカップサッカーに関してのニュースや記事などを見たり、その時の佐賀での出来事、「私の大分でのボランティア」についての話しを聞いて、国やことばの違い、交流やコミュニケーションなど感じた事や思ったこと、感想などを言ってみよう
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〇ブレーン・ストーミングする
(ねらい)グループになって、自由に発言してもらい、子どもの興味関心を引き出す
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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「ワールドカップ(期間中)は、世界中からたくさんの国のひとがやってきて盛り上がっていたね。」
「日本で、ワールドカップを続けてほしいなー」
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〇日韓ワールドカップでは、世界中から人々が集まってきて、盛り上がっている様子などに対して、驚きと興奮があったことをグループ内で話している児童が多かった。
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「ワールドカップでのボランティア活動はすごいなー、私もいろいろな人としゃべりたいなー」
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〇大分のボランティア活動で、多くの言語を使って活動していたことに対して、興味を示した。同じような感想を持った児童は、クラスの3分の1程度だった。
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「佐賀にカメルーンの選手が来たのを知らなかった。知っていたら会いにいっていたかも知れないのに残念だなー」
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〇日韓ワールドカップのニュースに対して、関心を持っていた児童は全員だったが、知識の程度は低く、地元佐賀での記事に関しては、女子はそのニュースに対する知識はほとんどなく、比較的男子の方に知識があり、テーマについて男女の意識の開きが見られた。しかし、話しを進めていくうちに興味・関心が男子女子とも強くなっていった。
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「交流する為には、日本語では通じないんだなー」
「日本では、日本語しか使わないから、外国の人と話すのは無理だなー」
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〇交流する為、外国語を学習する日本語では通じないことを児童同士で話し合っている様子が多く見られた。
〇国際人としては、外国語を使用することが不可欠であると考える児童が多かった。
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基本的なコミュニケーションについての基礎知識について理解をしよう
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〇コミュニケーションとは、何か?質問した後で説明する。
〇メッセージとは何か?質問した後で説明する。
〇交流とは何か?質問した後で説明する。
(ねらい)具体的にコミュニケーションの意味をイメージ出来るようにする
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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「コミュニケーションというのは、楽しく話すことだ」「遊ぶことだ」「長く話すこと」
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〇「コミュニケーションとは、言葉や行動を使う事で自分の感情を相手に伝えたり、状況を伝えることであり、それを相手が受取り理解することです。そのやり取りで、お互いに理解し合うことです。」だと説明する。その時、反応が少なかったが、(うなづくような態度が見られた)なんとなく伝わったような雰囲気が感じられた。
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「メッセージというのは、口から言葉をだすことかな」
「この授業の意味がなんとなく分かってきた」
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〇「メッセージとは、言葉や行動で自分を表現することです。考えた事を相手の人に理解させることです。また、お互いの間でやり取りする理解できる表現(言葉や行動など)です」と説明すると、うなずいたり、解ったという児童同士の発言や態度が見られた。
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「交流というのは、話すことだ」
「交流というのは、旅行する事です。」
「何で日本では、交流うまくできてないのかなー」
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〇「交流というのは、コミュニケーションと似ています。それは、お互いの間で同じ所や違うところを言葉や表現を使って理解し合うことです。」と説明すると、はっきりとは解らなかった様子だったが、児童は自分なりに考えて理解しようとしていたためか、日本の交流に問題についての発言が聞かれた。
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コミュニケーションや交流の意味や目的について考えて見よう
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〇世界には様々な国や人種があり、その数だけコミュニケーションの数がある。
その人たちが、人種や文化を越えてコミュニケーションしている。では、どうして交流
したり、コミュニケーションしているのでしょうか?(その意味を考えるようにする)
(例)
・ワールドカップサッカーでは、佐賀の子どもたちがカメルーンの選手とサッカー
をして交流していました。
・カメルーンの選手たちのキャンプ地は、中津江村でしたが、その人達とカメルーン選手の交流はTVで何回も放送されました。
・大分でのボランティアのとき(メキシコ対イタリア戦)でも、外国人サポータや
大分の人たちの交流が行われました。
(ねらい)人と人を繋ぐのは、言語や言語以外にもコミュニケーションの方法があり、自分のメッセージを伝えたり、相手のメッセージを受けとって、気持ちを共有したり、同じ目的を実現するためのもので大切なんだということに気づいてもらう
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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「1つは、ワールドカップという目的の理由があるから」
「FIFAの決めた開催地が日本と韓国に決まったから、試合のため交流やコミュニケーションしないといけない状況になってしまうわけ」
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〇始めは、テーマでの関係で目的が、ワールドカップに集中してしまった。その場の状況で交流しなければならなくなるという考えが強く、自分なりの目的にまでは意識がいかなかった様子だった。
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「交流のため、外国語をしゃべる事とボランティアは大切な事だ」
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〇交流の意味や目的が、必要なことに変わったが、外国語(英語以外の言語も含む)に対しての必要性や国際ボランティア活動などに関心が出ていることが解る。
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「知識や考え方、視野が広くなるため」「チャレンジするため」
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〇ここで、なんとなくだが、自分の目的らしい発言が聞かれた。さらに、具体的な目標を探せるようにするには、どのような働きかけが有効かもっと考える時間が必要だったようだ。
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「お互いの意見を議論するため」「他の民族と文化の違いや考え方・見方を理解する目的がある」
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〇交流の意味や目的について話し合っているとき、交流するためにコミュニケーションが必要であるということが理解できたという返事やうなずく反応が返ってきた。
〇いままで(以前の交流体験授業)の意味が解らなかったが、その意味がはっきりとしてきたという生徒の意見も聞かれた。
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【第2ステップ】-課題について考える-
自分なりのコミュニケーション方法を考えよう:課題研究(自己アピール・紹介)
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〇交流体験時に行う自己紹介の内容を話し合い、それをまとめる(2人1組になって、①②③のことについてコミュニケーションの方法を話し合いながら見つける)
①自分なりの自己アピールのコミュニケーションの意味と必要性をはっきりできる
かな?
・自分がどんなメッセージを伝えたいのかな?
・何のためにコミュニケーションしたいのかな?
②相手のメッセージが解らなくても想像力を使って、コミュニケーションできるか
な?
・表情やジェスチャーなどを使って、想像力や言葉以外でのコミュニケーションも
できるよ。
③自分なりの自己アピールの方法を見つけよう
・日本語や英語以外でも、コミュニケーションの方法は、たくさんあるよ。
・どんな方法でも、ためしてみよう!
・相手の人のメッセージもどんどん聞いてみよう。
(ねらい)自分なりのコミュニケーションする必要性とその目的を考えるようになる。
言語以外でもコミュニケーションできるなどの具体的なアプローチ方法を考えられるようになる。
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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「………・(会話がなく、言葉がでない)」
「やっぱり、自分のことをしゃべるのは難しいなー」
「君(お友達)のことはいえるけど」
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〇初めの反応は、言葉によるコミュニケーションについての言葉は少なく、どのように自分のことを伝えたり、表現ればいいのかということに対してほとんどの児童が戸惑いを見せた。
〇児童の反応の中で、自分のことをしゃべらない反面、お友達のことについてはよくしゃべるという行動が見られた。
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「ジェスチャーで話しをするのは、まだ、むずかしなー」
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〇言葉以外の表現方法も使ってという所では、児童が、感情的な表現方法(笑う、手を上げる)を態度で示す場面では、多くの児童がジェスチャーすること(非言語的表現)が楽しく、得意なことに気がついた。
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「(自己アピールで)もっと練習が必要だ」
「もっと、もっと(自己アピールの練習)すれば、もっとうまく出来るようになれるよ」
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〇最後に、児童が1人1人の自分なりの方法で、自分のことを自由に発言してもらった。席に座ったままの子どもや立って発言したり、自由なテーマで自分のことについてしゃべってもらった。しかし、自分のアピールの場面では自信を持って発言できる児童は2人程度(ダンスを習っている女子と野球をやっている男子)で、2分1の児童はなんとか自己アピールができたが、それ以外の児童は、自己アピールでは、戸惑いを見せた。
〇授業中に、外国人や先生、お友だち同士でもよくコミュニケーションしていて、聞くという態度もクラスの雰囲気はとても良く、楽しく会話はできている。それは、この時期の児童のコミュニケーション能力育成がそれほど難しくないことを示しているようにも思われる。
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【第2ステップ】-交流体験学習-
実際に世界の人達とコミュニケーションを体験してみよう:交流体験の実践(外国人数人)
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〇外国人留学生とそれぞれの方法で自分なりの自己紹介を体験する
① 自分なりの目的による自己アピールができるかな?
② 外国人留学生との自己紹介(話すだけでなく、聞いて想像して理解しようとする姿勢の有無)
③ 楽しく積極的なコミュニケーション(言語・非言語)ができるかな?
(ねらい)実際に表現してみるとどうなるのか体感する事で、難しさや面白さを発見し、
コミュニケーションに対する見方を現実的なものにしていく。また、人としての共通
性に目をむけ、その視点で相手を理解しようとする態度や姿勢を育てる
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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外国人留学生(メキシコ人)を見て「顔が違うし、肌の色も違うよ」
「鼻が高いし、かっこいいなー」
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〇メキシコ人の留学生がスペイン語で自己紹介したとき、英語以外の言語は珍しいようで、何語をしゃべっているのか分からず、びっくりしていた。
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「Hello」
「How are you?」
「Where are you come from?」
「hola」(スペイン語でこんにちは)
「¿Cómo estas?」(スペイン語で元気ですか)
「¡Adios!」(スペイン語でさよなら)
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〇なんとか知っている英語で、コミュニケーションしようと努力したり、知っているスペイン語を使ったりして、外国語によるあいさつをしようとしている児童が多かった。
〇「日本語で話して見たらどう?」というと戸惑いながら「こんにちは」「どこの国から来ましたか」と短いあいさつをしゃべるくらいで、日本語でコミュニケーションしたり、ジェスチャーを使った表現を試みる児童は少なかった。
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「My name isはるか」
「My name isだいすけ」
「I’m ten years old」
「I’m student」
「I play tennis」
「I play soccer」
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〇自己アピールでは、非言語による表現方法は、ほとんど使うことがなく、英語による発言が多かった。まだ、慣れるには体験学習時間を増やしていったり、教師の支援での工夫の必要があるようだ。
〇自分なりの自己アピールがうまくできた児童は、少なかったようだ。
〇自己アピールに対して、児童の積極的な態度や意欲は高いことが分かったが、うまく自己表現できるようになるまでには、継続して練習時間が必要である。しかし、最後まで子どもたちとのコミュニケーションは、続いていたのが良かったと思う。
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【第3ステップ】―いままでやってきたことを話し合う-
交流体験を通して思ったこと気がついたことを話し合いましょう
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〇話し合い:第1ステップから第2ステップを振り返る
・感想を話しあう
・うまくいった点・うまく行かなかった点
・難しかった、楽しかった、そのほか気づいた点
(ねらい)今までを振り返り、交流体験の感想や気づきを話し合うことで、自分なりの自己アピールがうまくいっていたか自己評価の機会をつくり、今後のコミュニケーション目的を設定し、実現して行くという意識を育てる
児童の活動の様子 (つぶやき・反応)
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「ビクトル先生(ペルー)とメキシコ人留学生さんと顔が似ているね」
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〇児童たちは、顔の特徴や肌の色などよく観察して、興味を強く示していた。
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「日本語をしゃべれないとどうしようかなー、困ってしまうな」
「一生懸命、英語か日本語を使いました」
「ゆっくりしゃべったり、表現を工夫したりしてがんばったよ」
「もっと練習しないとすぐには出来ないなー」
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〇児童の気持ちとして、コミュニケーションしたいけど言葉の違いにより、どうやったら伝えたり、理解していいのか分からないといった感情を持った児童が多かったようだ。ここでは、教師の働きかけがもっと必要であり、グループ学習や体験学習も時間をかけて行くことが必要である。この体験学習が、まだ不充分であると、というように子どもたちは感じたようだった。
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「メキシコでは、どんな言語をつかっているのかな?」
「メキシコは、サッカー強いですね」(サッカーをしている男子のグループでは、メキシコチームやイタリヤチームの選手の名前や情報が活発にやり取りされていた)
「私は、ダンサーになりたい」
「私は、野球選手になりたい」
「私は、サッカープレイヤーになりたい」
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〇子どもたちと話しているうちに、異文化をもっと知りたいと思う気持ちが強くなっていったように感じた。
〇最後に、子どもたちと皆で、一緒になって南米の踊り「サルサ」を踊ったり、自由に会話したりしているうちに、自分の夢と世界が広がるように、サッカー選手にないたいとか、ダンサーになりたいと話す児童が出てくるなど、少しではあるが、コミュニケーションや交流により、自分にも必要であるという目的意識が生まれたのではないかと思われる反応が見られたことは良かったと思う。
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4 まとめ
(1)児童の学習の様子による評価
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評 価 内 容
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結 果
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コ
ミ
ュ
ニ
ケ
│
シ
ョ
ン
能
力
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〇メッセージとコミュニケーションに
ついて考えることができたか
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〇初めの反応は、コミュニケーションは言葉を基本として考えていた児童が多く、コミュニケーションについての説明をすると子どもたちなりに、コミュニケーションという意味を考えていた。しかし、意味や目的については、一人ひとりがはっきりとした必要性を理解できたかどうかの把握は、できなかった。そこで次回は、アンケートや小作文を取り入れて評価の参考にする必要がある。
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〇自分なりの考えや意見を持ち、自分な
りに表現することができたか
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〇課題学習の場面で、自分なりの自己アピールがうまくできた児童の数は2人と非常に少なかった。
〇児童の反応の中で、自分のことをしゃべらない反面、お友だちのことについてはよくしゃべるという行動が見られた。自分以外の人についてしゃべるということは得意である。
〇自分をアピールする体験が少ないため、そのための時間を多く設ける必要がある。また、教師の支援による導きと課題学習を十分に行うことが必要である。
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〇言葉以外の表現方法も使って、メッセージを伝えることができたか
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〇言葉以外の表現方法も使ってという所では、児童が、感情的な表現方法(笑う、手を上げるなど)体を使ってコミュニケーションする場面があり、多くの児童がジェスチャーすること(非言語的表現)が楽しく、得意なことに気がついた。しかし、実際の交流体験では、言葉のみのコミュニケーションになってしまい、ジェスチャー的な表現は少なかった。
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〇相手のメッセージを受取り、イマジネーションを働かせて、相手を理解しようという姿勢がもてたか
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〇イマジネーションを働かせるという理解には、まだ充分な時間をかけ、そのような内容の授業計画を準備する必要があると考える。そのため、今回の授業で評価することは困難であった。
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〇何でも自由に話せるような雰囲気づくりやマナー(話し方・聞く姿勢)ができたか
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〇授業中に、外国人留学生や先生、お友だち同士でもよくコミュニケーションしていて、聞くという態度もできている。クラスの雰囲気はとても良く、皆と楽しく会話ができていた。
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〇自分なりにコミュニケーションする目標や目的を見つけることができたか
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〇(将来の夢などの発言から)自分なりの目標や目的を見つけたような様子が見られた。
コミュニケーションをすることの意味や目標を具体的にすることは重要であり、今後は、小作文などを取り入れ、具体的に認識させる必要があると考える。
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異
文
化
理
解
体
験
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〇それぞれの国や人種の違い、ものの見方や考え方のちがいに気づいて、学ぼうという姿勢が見られたか
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〇異文化間コミュニケーションの目的を「お互いの意見を議論するため」「他の民族と文化の違いや考え方・見方を理解する目的がある」と答えるなど異文化に対する違いや考え方に興味をもち、異文化を知るとしている姿が見られた。
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〇異文化間のコミュニケーションを体験し、自分のイメージとの違いを認識し正しい異文化の知識を吸収できたか
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〇外国人留学生のメキシコ人に「メキシコでは、どんな言語をつかっているのかな?」
「メキシコは、サッカー強いですね」と質問するなどその人の文化を自分の目で理解しようという姿勢が見られる
〇児童は、メキシコについての知識がなかったため自主的なメキシコについての知識を調べたりする時間が、取れればもっとよかったと考える。
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〇異文化間のコミュニケーションに大切なものは何かを発見できたか(忍耐、寛容さ、誤認識の危険性など)
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〇「一生懸命、英語か日本語を使いました」「ゆっくりしゃべったり、表現を工夫したりしてがんばったよ」という点は、異文化間コミュニケーションには大切な忍耐や寛容さを子どもたちが自然にもっているという点を評価したい。
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〇同じ人間としての[共通性]を見つけ、その視点に立って相手を理解できたか
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〇交流体験では、児童たちは、外国人留学生2人の顔の特徴や肌の色などよく観察して、強い興味を示していた。
しかし、同じ人間として共通性を見つけるには、交流体験学習の時間を多く設けることや協同作業などの時間をつくるなどの必要があり、経験を重ねる必要から評価ができなかった。
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国
際
交
流
体
験
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〇交流を通して「外国人=英語圏」という視点から、「外国人=いろいろな国の人々」という多文化的な見方ができるか
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〇交流の最初にスペイン語での紹介について、「何語?」という驚きの発言が聞かれた。英語以外の言語に直接触れた事でびっくりしたという児童の反応が面白かった。しかし、授業の途中では、スペイン語で挨拶をしたり、ダンスを踊ったりサッカーをしたりして、英語圏という枠を越えた考えを少しは、もてたのではないかと考える。
〇交流体験では、なんとか知っている英語で、コミュニケーションしようと努力したり、習ったスペイン語を使ったりして、外国語によるあいさつを試みる児童の姿が見られた。
|
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〇交流を通して、コミュニケーションの面白さや難しさを体験することができたか
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〇体験学習での児童のつぶやき・子どもたちの反応から様々な実感を経験した事が生き生きと感じとられる。「日本語をしゃべれないとどうしようかなー、困ってしまうな」「もっと練習しないとすぐにはできないなー」
〇最後に自由に会話したりしているうちに、自分の夢と世界が広がるように、サッカー選手にないたいとか、ダンサーになりたいと話す児童が出てくるなど、少しではあるが、コミュニケーションにより、自分なりの交流の目的意識が生まれたのではないかと思われる
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〇交流体験での、共同作業を通じて相互理解を深めるため、協調性や積極的に参加する姿勢ができたか
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〇始めは戸惑いながら「こんにちは」「どこの国から来ましたか」と短いあいさつをしゃべるくらいであったが、授業の最後には、ダンスを踊ったり、サッカーの話しをしている内にだんだんと自分のことを話したり外国人留学生に質問するなど距離が無くなっていった。積極的な態度が多く見られるようになった。今後は、もっと具体的な協同の作業の時間を設けるなどお互いの理解を深めるための授業計画を用意する必要があると考える。
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(2)今後の課題
北川副小学校の5年生の児童は、学校の取り組みとして「総合的な学習の時間」で「国際理解教育」の授業を1週間に1回程度行っているため、外国のことや外国人に対して興味・関心がある方だと思われる。リサーチ結果でも中学生より小学生の方が表現力は豊かであると感じた。そのため、積極的な態度は本来子どもに備わっているもので、中学生になるほど消極的になっているように思う。
また、あまり外国人に接したことがないため、どのように接したら良いのか戸惑う児童も多かった。全く発言することがなく、自己表現できなかった児童もいたが、そのような児童には、教師の支援による時間をかけた指導が必要であると考える。しかし、多くの生徒は、時間が経つに従って自然に発言や行動ができるようになっていった。授業の最後には、コミュニケーションというテーマの意味が分かったという1人の児童の言葉があり、うれしく感じた。
さらに、異文化間コミュニケーション体験では、「外国人=英語圏」という概念を払拭するため、メキシコ人留学生との交流を行ったが、子どもたちが英語以外でコミュニケーションする場面を設けたことは良かったと感じている。それは、実際に体験することで、英語や日本以外の言語を耳で聞き感じることや英語が通じない国があることを知るいい機会になったと考える。重要なことは、「なぜ英語をしゃべるのか」ということを気づいてもらい、そのことを考えることは、コミュニケーションの意味を深めることに繋がるため教師の指導が必要であると考える。ここでは、子どもの外国人に対するイメージを少しでも広げることができたと考える。さらに、このような多国籍な交流を持続して行う必要性を感じている。
この実践で、一番評価できる点は、子どもたちの積極性であり、異文化を吸収しようとする姿勢や受け入れようとする態度である。これは、小学校での異文化理解教育の実践が有効であることを示している。中学校では、このような積極的な態度や受け入れようとする姿勢は見られなくなって行くようである。なお、ある子どもの発言でコミュニケーションの目的を自分の夢に繋げるような発言が見られたことはこの授業の実践を通して有意義な出来事となった。
一番難しいと感じた点は、人としての“共通性”の視点を育成するという学びに対する支援と、授業を通して児童の学びの状態を把握することであった。これには、時間をかけて子どもの反応やつぶやき、またインタビューやアンケートの実施を通しての充分な把握が必要であり、それにより今後、その点での授業計画の内容再検討や時間配分の考慮がされる必要がある。
授業計画の課題として実践と評価面で授業時間に十分ゆとりを取り、児童生徒に
学ぶ時間を与え、児童中心の学びの場を作ることができるようにしたいと考える。
5 考察
私が、6月から12月までの間、母国ペルー(文化、言語、民族、習慣、伝統芸能など)についての授業実践時の子どもたちの様子と、2003年1月に実施したカリキュラムによる授業後の子どもたちの様子に、どのような変化が見られたのかについて、簡単に考察を行っておきたい。
(1)カリキュラム実践前の子どもたちの様子
6月の初回訪問時、日本語での挨拶や紹介に対して、表情は少なく、言葉はあまり返
ってこなかった。ペルーについての授業中も下を向いたり、他の場所を見たりで、興
味や関心は見られなかった。この段階では、子どもたちの様子をどのように判断した
らいいのかまったく分からず、コミュニケーションを取るのも難しいと感じた。始め
て、会う人や外国人に対して、自分を表現するという態度や積極性は見られなかった。
経 過 ①:
子どもたちの様子に少しずつ変化が見られたのは、8月(2ヶ月半)頃からで、挨拶
を日本語やスペイン語や英語で話しかけてくる子どもが2、3人現れた。この頃は、ペ
ルーについての授業中にも、質問が1、2回出てくるようになった。しかし、表情は、
まだ少し硬く、コミュニケーションもうまく行えなかった。私(外国人)に対して、
どう接したらいいのか分からなかった様子だった。自分を表現するという点に関して
も変化は見られなかった。
経 過 ②:
9月を過ぎた頃から、数人の子どもたちが、自然に挨拶が出来るようになって行く。
同時に、授業中でも活発にペルーについての質問が出されるようになり、10月を過
ぎると、クラスの雰囲気が親しくなっていった。また、子どもたちの興味関心は、ぺ
ルーに関係したものから、南米の国々や自分の興味についての質問が出されるように
なって、私に対して積極的な態度が見られるようになった。この頃には、私に自然に
笑いかけたり、話しかけるようになり、自分を表現する子どもたちが何人か出てきた。
コミュニケーションも活発になり、これにより、子どもたち、1人1人の個性を把握で
きるようになっていった。
経 過 ③:
11月から12月は、表現能力に次いで、「共生の精神」(人間としての共通性の視点についての観察を進めた。この点に関して、外国人との共通点について、アンケートした結果、「同じ生きている人である」とはっきり答えた子どもが多く、私が考えていたよりも、子どもたちの異文化を受入れようとする精神の存在を感じた。それは、これまでのコミュニケーションにより、培われた部分もあると思われる
(2)カリキュラム実践後の子どもたちの様子
まず、1月の授業の後に子どもたちの様子が変わった点をいくつか挙げると、
①子どもたちが、自分を表現する態度や姿勢、そのときの表情が変わったことである。以前は、自信のある発言を行っていた子どもは、2人だけだったが、この授業後には、他の子どもたちにも少しずつ自分なりの考えや表現力を使って積極的な様子が見られいる。これは、カリキュラム実践前には、見られなかった点である。英語を習っている子どもの1人は、自分の考えをどのように英語で表現すれば、相手が理解できるのか、という質問をするようになり、英語に興味の無かった子どもが、自分の意見を英語では、どのように言うのかと質問できるようになってきた。これは、コミュニケーションの意味や目的を自分なりに考える学びの場面で、自分のメッセージを伝える意味について考えたことや、コミュニケーションをするという基本的な行動について、自分なりのコミュニケーションの表現方法を見つける大切さを学んだことで引き出されたのではないかと考える。
②メキシコ人留学生との交流では、私を通して質問していた子どもたちが、最後には、自分の力で、英語やスペイン語や日本語などを使って直接コミュニケーションしようと頑張ていた姿があった。それは、この交流が自然に子どもたちの異文化の興味、関心を引出し、自分の疑問や感想を自分なりになんとか相手にコミュニケーションするという態度を引き出したと考えられる。この時間で、忍耐強く、相手の表情や言葉や態度を観察し、相手の理解に努めたり、自分の意見を理解させたらいいのかを考える良い機会になったのではないかと思う。
③コミュニケーションによって人と人を繋ぐという、このカリキュラムのテーマをどこまで、子どもたちが「人としての共通性」を発見するという精神が育成できたかは、この時点での様子からは、見ることはできなかった。この点では、今後も、この子どもたちとこの視点でのコミュニケーションを行ない、子どもたちの様子を観察する必要があり、アンケートや小作文などのを活用して子どもの学びを把握する必要があると考える。
最後に、この実践は、子どもたちと私との半年間の関係が基本にあって、行われた点
が、非常に重要なポイントであったと考える。もしも、子どもたちとの人間関係が無く、
このカリキュラムの実践が行われていたら、学びの場を作る事は困難であったと考える。
このカリキュラムは、実践の前の段階で、子どもたちとの人間関係を作るところから
充分な時間をかけて、準備が行われる必要があると感じた。教育者側は、その点を考慮
する必要があり、普段から、生徒一人ひとりと良くコミュニケーションし、表現力や態 度や姿勢面での把握や個性を認識することが大切であると考える。
また、外国人との協力も、子どもたち分かりやすいように、数回に分けてコミュニケ
ーションする時間が必要であると考える。その上で、異文化の理解に対して興味を引き
出したり、自分なりのコミュニケーションの方法や交流によって他者との理解を深めて
行くということが必要であると考える。
注
(1)多田孝志 『学校における国際理解教育―グローバルマインドを育てる―』東洋館出版社1997.12 pp118‐193
(2)児島邦宏/山極隆/桐谷澄男 編『小学校総合的な学習ガイドブック』教育出版1998.4 pp2‐19、pp140‐145
(3)川村千鶴子「人の『異なり』とは何か―多文化教育を拓くもの」 渡戸一郎・川村千鶴子 編著『多文化教育を拓く―マルチカルチュラルな日本の現実の中で―』明石書店2002.2 pp45-52、pp61-65