第4章 異文化理解教育のカリキュラム開発とその実践
第1節 具体的なカリキュラムの作成
1 基本的概念と目標(共生とコミュニケーション)
自国の文化を大切にしながらも同時に異文化をも認め合い、相手の立場に立 って考えることや対話や討論によって他者との出会いを経験し、協同作業によ って人としての共通性にこころを傾けるという姿勢を育むこと。
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異文化理解教育でのコミュニケーション能力育成の概念は、人種をこえて人間として共通するものを発見できるかどうか。また、同じ社会でお互いを尊重しながらどう生活していくかという精神を育むという教育理念に基づいている。
その「目標」としては、
A:コミュニケーションの大切さを考えること(メッセージを伝えること)
具体的な知識や方法がわからなくても自分のメッセージがあれば、自分
なりに、どうにかして伝えようとする態度やイマジネーションを働かせ
てコミュニケートしようとすること。そして、人種の違いや民族の違い、
ものの見方や考え方の違いを幅広く理解しようとする態度を育成するこ
と。
B:また、人と人を繋ぐ道具としての外国語のイメージを育てることや、
英語コンプレックスを解消するため、一人一人の個性を大切にしたオリ
ジナルな言葉(自分だけの言葉)の発見や言葉以外の表現を使う意味な
どを考え、英語が出来なくても他の言語や方法からでもコミュニケーシ
ョンの方法を図ろうと努力すること。
C:自分の民族や文化や社会の中にある世界(外国)に興味を持ち、異な
る人たちとどのように関わり、コミュニケーションすることができるか。
その中で、自分たちと共通な点や問題点とは何か。また、どうのように
すれば問題が解決できるのか考え、自分と相手との意見交流や協力がで
きること。
2 カリキュラムの内容(学校の授業に則したもの)
(1)カリキュラムの類型
カリキュラムの類型には、①総合型②教科重視型③教科統合型④特設型④焦点化型⑤トピック型などがあるが、今回は、コミュニケーション能力に焦点を当て、そのねらいの達成をめざす④焦点化型のカリキュラムを作成する。
(2)具体的なカリキュラム内容
具体的なカリキュラム内容を作成するにあたって、小・中学校での英語教
科と総合学習でのカリキュラムの両方を調べて見た。その結果、実際に国際
理解教育に関するカリキュラムの事例は見当たらなかったので、今回は書物
によるカリキュラム開発の部分やカリキュラムの事例を参考にして独自にカ
リキュラムを作成することになった(1)(2)(3)。
ⅰ)実践の特色
2002年の新学習指導要領のスタートにより、国際理解教育が公立学校で
始まったのを機会に、英語教育が小学校でも始まった。しかし、その実態
は、国際人の育成を基本にしながら、英語のコミュニケーション能力を育
成することを中心に進められている。それは、中学校からの教科教育での
英語教育と同じように英語に対するコンプレックスや不安を増やしている
実態がある。
そこで、総合学習の時間を使って、小学校5.6年生及び中学校1・2年生における異文化理解を目的としたコミュニケーション能力育成の実践により、本来の国際理解教育のめざす人材の育成を図ることを目的として、
外国語をふくめたコミュニケーション能力育成「共生を目的としたコミュニケーション」をテーマとして、授業計画を作成する。
対象:小学校5・6年生及び中学校1・2年生
領域:「外国語活動」や「体験総合活動」の2領域から構成し、総合的
な学習の時間を使用する(以後の研究の展開によっては、他領
域や複数の領域に広がる展開も視野に入れて柔軟に対応する)
ⅱ)学習指導計画
-モデル案A(小学校5・6年生対象)-
≪学習のねらい≫
①自分なりの視点での意見を持ち、相手にメッセージを伝える方法を発見
し、コミュニケーションしていく方法を考え、身につける。
② メッセージを伝えたり、協同作業をしたり、目的のためのコミュニケ
ーション「道具としての言葉(言語(外国語)・非言語)の意識とそれを
実現するためのイマジネーションや協力的な姿勢を身につける。
※尚、小学校5.6年生のカリキュラムと併用して行えるような短い時間で行えるものとし、他の教科との横断的な学習が可能なように考慮した。また、学習内容を細かく作成し、中学校の内容(異文化間コミュニケション)よりも基本的なコミュニケーション能力の育成面に重点をおいて作成した。
≪小学校5・6年生学習指導計画≫(総合学習の時間約4~8時間扱い)
次
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時
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学習内容
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学習活動
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支援
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1
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1
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〇世界の国名と位置その人種と言語使用の状況を確認する
〇言葉だけ(英語)だけでなく言葉以外のコミュニケーション方法があることを理解する。
〇人と人との間に共
通する部分(人生や個性)があり、人種や文化を越えてコミュニケーションしている人たちのことを理解させる
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-導入段階-
〇世界中には、さまざまな人種があり、その数だけコミュニケーションの数がある
〇異文化や他民族やその国のコミュニケーションの事情を理解する
〇ワールドカップサッカーなどの世界をこえた交流について話しをする
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〇興味関心を高める
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2
3
4
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1
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〇近くに住んでいる外国人のことに触れ、言葉や文化の異なる人が、接触するとき、どうやって自分の気持ちを伝えたらいいのか。
〇メッセージを伝えたり、協同作業をしたり、目的のためのコミュニケーションを理解するため、コミュニケーションについて、外国で使われている言語や文化について自分の興味のあることを調べる。
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〇学習課題をつくる
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〇内容の支援
子どもの疑問や質問に対して、コミュニケーションのイメージを広げるように働きかけ、コミュニケーションを身近に感じるような支援を行う。また、子どもの目的意識を引き出すような働きかけを行う。
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1
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〇日本語や英語はもちろん、他の外国語やジェスチャー音楽、日本の歴史など自分の頭を使ったコミュニケーションの方法を考える(メッセージを伝える方法)
〇相手のメッセージを理解する姿勢
〇話したり、聞く時の雰囲気や態度も大切だと理解させる(eye‐contactとムード)
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〇いろいろなやり方で自分を表現してみよう
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〇コミュニケーションを考え、表現して行くという意識を高める
〇子どもの変容から学習の理解や態度を捉え、コミュニケーションの方法やヒントを話していく
〇子どもの学ぶ速度に合わせ授業内容を工夫していく
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1
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〇文化や言葉を理解するということ(準備段階で必要な知識)
〇自分で考えた方法でメッセージを伝える(実際にメッセージが伝える伝わるかどうか国際交流体験で行う)
〇実際に外国人との交流体験で、自分のテーマで交流する
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〇国際交流体験で、学習した成果を使ってコミュニケーションする
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〇偏見や誤解に対しての視点も考えるように指導する
〇コミュニケーションには、苦労が伴う反面、分かり合える楽しさや発見があることを導く
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5
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1
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〇各自オリジナルの作文を作成する
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〇国際交流体験から学んだことを発表する
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〇意識と意欲引き出す
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≪参考≫
〇教材として、
①地域マップ、地球儀、辞典・関係書物など
②図書室の活用・絵・VTR・テープ・写真・新聞記事など
③民族的なもの(衣装・楽器・おもちゃ・教科書など)
〇活動例として、
外国人留学生・ALT・外国の研修生、市内在住外国人、外国駐在者、帰国子女
との交流による授業実践
①ALTや留学生、外国人の研修生、など外国人との直接文化交流活動を営む
②外国の学校や姉妹校や外国人との文通活動、電話、Fax活動、絵・写真などの映像や言葉の交換による交流活動
-モデル案B(中学校1・2年生対象)-
≪学習のねらい≫
自国の中にある外国や外国語に触れ、異なる人種や文化に触れることで実際
の世界を見て、自分自身でつかむことの大切さや異文化間コミュニケーション
を体験し、面白さや難しさに気づくこと。また、その意味と必要性が理解でき、
積極的な態度を養う。
※尚、このカリキュラムは、他の教科カリキュラム(英語科)との併用が可能なように工夫し、横断的な学習を行えるよう考慮したが、現在中学校での取り組みは、受験などの都合により実践が困難であり、このカリキュラムが実施できるかどうかの検討が必要である。
≪中学校1.2年生学習指導計画≫(総合学習の時間約4~8時間扱い)
次
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時
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学習内容
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学習活動
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支援
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1
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1
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〇日本と海外ニユースの内容を分類し日本とつながりあることを知る。
〇調べたいテーマを決定する
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〇学習課題をつくる
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〇興味関心を高める
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2
3
4
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1
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〇調べたいことを、どのような方法で調べるか、調べた内容をどのように表現するかの意見を交換し、協力して調べる
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〇興味のある世界の文化や民族についての概要をしらべてみる
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〇内容の支援
生徒の関心のあるテーマでのヒントを与えたり、質問を受けつけたりしながら学びの過程を見守る
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1
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〇調べた事を確かめるためのコミュニケーションを図るには、どのような方法があるか考えてみる
〇1次で調べた内容を外国人留学生などに質問してコミュニケーションする
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〇調べたことを確かめるため異文化間コミュニケーションを試みる
〇実際の異文化間コミュニケーションを体験する
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〇メッセージを理解し伝えることに意識を向けるよう指導する
〇コミュニケーションの意味と大切さを考えながら、相手を理解する気持ちを持たせるよう支援する
〇イマジネーションを使ってコミュニケーションをすることや異文化間コミュニケーでの知識や方法などを教える
〇コミュニケーションする雰囲気を皆で作ることも大切だと分かるように指導する
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1
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〇コミュニケーションの結果、発見したことや修正することなど気づいたとを意見交換して、学習課題をまとめる
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〇学習課題のまとめ(異文化間コミュニケーションを通して、調べた内容と実際に体験した内容を対比してみる)
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〇自分の調べた内容が自分なりの視点に立つて異文化を判断するということに意識をもたせる
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5
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1
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〇異文化間コミュニケーションで感じた感想をアンケートしたり、作文を書く
〇自分の意見をまとめ、意見を発表し合う
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〇異文化間コミュニケーションの体験から学んだことを考え、ディスカッション形式で皆と意見を交換する
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〇今後のコミュニケーションの目的意識と意欲引き出す
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≪参考≫
〇教材として、
①地域マップ、地球儀、辞典・関係書物など
②図書室の活用・絵・VTR・テープ・写真・新聞記事など
③民族的なもの(衣装・楽器・おもちゃ・教科書など)
③情報機器インターネット、電話や手紙など
〇活動例として、
① 外国人留学生・ALT・外国の研修生、市内在住外国人、外国駐在者、帰国子女
との交流による授業実践
② 海外ボランティア活動
③ 他国の政治、経済、社会、歴史、風俗、習慣等の文化を理解する
④ 自国の文化、伝統文化、地域社会、学校文化を理解する
⑤ 自国と他国の文化を比較させ、その間にある共通性や差異性を発見する
⑥ 各国の国民性、文化性、課題を理解する
3 カリキュラムの実践における注意点
①教師と研究者との協力:日本人教師とのコミュニケーションにより教育の目的意識や役割、学習方法について同じ認識に立ち、協力して編成していくことが、効果的なカリキュラムの開発に役立つ。
②学習方法の工夫:論理的な思考や直感的な思考の力、探究する意欲の育成やそのための学習方法を考える。シンキング・スキル(Thinking skill)」や「ラーニング・スキル(Learning skill)」の習得もまた重要な問題として取り入れる。また、具体的な異文化との(ALTや外国人留学生)接触や交流、TTの導入などの検討も考慮する必要がある。
③子どもの活動に柔軟に対応する(弾力的な運用を図ること):計画どおりに行うことよりも、実際の指導にあたっては、授業時数や授業時間の弾力的な運用も考慮しておくこと。
④個性に応じた指導を工夫すること:子どもの発達段階に応じた指導を進めるためには、子どもの学習活動に柔軟に対応できる多様な展開を考えておくことや、子どもが主体的にかかわる教材・教具を準備しておくこと、教師と子どもの交流を重視することなどが必要である。
⑤潜在的カリキュラム:既存の価値観や態度、行動様式、風土や校風、伝統といった潜在的に学校文化を構成する「潜在的カリキュラム」をも視野に入れること。
4 教材選択とクラス環境
(1)教材・資料の収集、吟味、サポート機関の調査
学校関係だけでなく、多面的に教材・資料の収集をし、選択・吟味しておくことが必要である。また、在外公館、資料センター、研究所などの資料を提供してくれる諸機関を調査しておくことも必要である。
(2)クラス環境を整える
コミュニケーション能力を育成するためには、クラスの環境が重要になる。
明るい雰囲気で、なんでも自由に話しが出来るクラス環境を普段から作る意識が大切である。教師と子ども達、子ども達同士、また地域の環境を考え地域と交流できるようなオープンなコミュニケーションの場を作ることも必要であるといえる。今回の計画では、学校の中での授業を設定したが、学校以外の場所での実践も必要であると考える。
5 評価基準と方法
1. 評価基準としての目標
コミュニケ|ション能力の育成
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〇メッセージとコミュニケーションについて考えることができたか
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〇自分なりの考えや意見などを持ち、自分なりに表現することができたか
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〇言葉以外の表現方法も使って、メッセージを伝えることができるか
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〇相手のメッセージを受取り、イマジネーションを働かせて、相手を理解しようとする姿勢があるか
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〇何でも自由に話せるような雰囲気づくりやマナー(話し方・聞く姿勢)ができているか
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〇自分なりにコミュニケーションをする目標や目的を見つけることができたか
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異文化理解体験
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〇それぞれの国や人種の違い、ものの見方や考え方のちがいに気付き、異文化について学ぼうとしているか
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〇異文化間のコミュニケーションを体験し、自分のイメージとの違いを認識し、正しい異文化の知識を吸収できたか
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〇異文化間のコミュニケーションに大切なものは何かを発見できたか(忍耐、寛容さ、誤認識の危険性など)
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〇同じ人間としての“共通性”を見つけその視点で相手のことを考えることができたか
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国際交流体験
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〇交流を通して「外国人=英語圏」という視点から「外国人=いろいろな国々の人々」という見方ができたか
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〇交流を通して、コミュニケーションの面白さや難しさを体感することができたか
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〇交流での協同作業を通して、人との協調性や積極的に参加する態度が育っているか
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2. 評価の方法
≪種類≫
①観察法(子どもたちの日常の行動を観察し記録する方法)
②質問紙法(アンケート):質問項目の設定「現実・経過・経験に関する項目」と「態度・意見・価値・感情などの項目」を基本とする。
③面接法(些細な会話やコミュニケーションから)
④作文法(日記やレポート課題の内容から)
≪評価の選択≫
①授業中の活動の観察:授業前・授業後も考慮して、授業の参加意識、活動内容、成長の様子を読み取っていく。
②課題研究:情報・資料収集・分析・考察など内容面の評価よりも独自の見解や視点があるかを重視する。また、グループの協力体制や連帯意識や意見交換が活発であるかなど社会性の評価も大切である。
③討論・スピーチ:コミュニケーション能力の育成には重要な部分を占めているため、話し合いに積極的に参加しているか、説得力のある意見が出せるか、相手の意見を的確に聞き取っているか、自分とは異なる意見・考え・感覚を認める姿勢があるか、タイミング良く意見がだせるか、事例が適切か、論旨が通しているかなど内容での評価が大切となる。
「自分なりの見方・考えたかをしているか」重視する。